いんたびゅー

【何も言えないときはどうしたらいい?】

 

 

……つまりね、僕は何かを誰かに聞いてほしくてたまらないわけですよ。

もちろんその「何か」はいつもどおり何なのかわからない。そして聞いてもらったところで気が済むかどうかも怪しい。

そんなとき言葉なんか出てこない。

出てこないけれど吐き出せたら楽になれるはずだという思い込みだけはある。

僕は嘔吐寸前みたいな感じでずっと待ってるわけなんです。

 

インタビュアー:

なるほど。しかし、それは本当に「聞いてほしい」なんですか?

 

僕:

いい点をついていますね。そう、そのとおり。僕は「聞いてほしい」と思っているわけじゃない。「聞いてほしい」というのはいわば比喩だ。

「わかってほしい」というのですら一種の比喩ですね。ほんとうは僕たちはわかってほしいなんて思っていないのかもしれない。もっと漠然とした欲望を、たとえば「承認欲求」と呼ぶとしっくりくるからそう呼んでいるだけなのかもしれない。

原理的に解決しないんです。つまり、どれだけ言葉を誰かにぶつけても、それで何かが伝わりきることはないし、すっきりすることなんてない。

大体「すっきり」ってなんなのでしょう? まあ「すっきり」は僕が求めている感覚ですが、ほかの人にしたって何か漠然と欲望している感覚みたいなものはあるでしょう。そういう感覚は実在するかどうかなんてわからないじゃないですか。わからないのに、それがあるものとして振る舞っている。

 

インタビュアー:

となると、○○さんでいうところの「すっきり」というのは、決して得られないものなのでしょうか?

 

僕: 

そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。そんなことわかりゃしませんよ。

でも、ありきたりなことをやっている限りは、いつまで経ってもフラストレーションを抱え込んだままで終わるんじゃないでしょうか。昨日もおとといも大して今日と違わないことで悩んでいたのに、どうして何もしないままでいて明日が劇的に変わるなんて期待できます?

「何も変わらない」と「どうなるかわからない」だったら、「どうなるかわからない」ほうに賭けたいじゃないですか。

 

インタビュアー:

それは「未来なんて無意味かもしれない」という可能性から目を背けておく、ということですか?

 

僕:

そう言って間違いではないですが、あなたの言い方にはどこか悪意がありますね。

 

インタビュアー:

悪意、ということもないのですが、純粋に疑問に思いまして……つまり、「未来なんて無意味かもしれない」と思いながら「何かがよくなるはずだ」と信じながら何かを続けることにはやはり矛盾がありませんか?

 

僕:

おっしゃる通りだと思います。

 

インタビュアー:

となると、その矛盾は抱え込んでいくしかないと。ある拍子にその矛盾がふっと顔を出してきて「よくなるはずだ、なんて思っているけれど本当は無意味かもしれないぞ」というような疑念が生じることもやむをえないと。そういうわけですか?

 

僕:

たしかにそのとおりで、今もずいぶん苦しめられています。

ものを書くというのは徒労感をともないますから。完成するかどうかもわからないものに向かって小さな土くれを積み上げていくんです。まだ何にもなっていない土くれの山を見て、「これに本当に意味があるんだろうか?」と思えば途端に不安になります。

それでも土くれを積み上げつづけていると、フッと何かの形が見えたり、新たな発見があったりするんです。なんだ、案外悪くないじゃないか、と思えると、それは確かに救いになるんです。今日よりは明日のほうがいいものが書けるかもしれないと思って元気にもなれます。

ただね……

 

インタビュアー:

 

僕:

今思ったんですけどね、その、「いいものが書ける」っていうのは、必ずしも「意味がある」ってことではないのかもしれません。というのは、いいか悪いかを判断するのは、あくまで僕自身の目だから。

もちろん、続けているうちに僕自身の目が磨かれるというか、要求水準が高くなって、ちょっとやそっとじゃ満足いかなくなってくるというのはあると思います。そうするとますますいいものを志向するようにはなると思う。ただ、それが「より意味のあるものを作れるようになる」ことにつながるかといえば、それは違うと思う。

まあ広い意味で言えば、たとえば僕が追求しつづけた「よさ」が十分に深まることで、それが世の中に与える影響なんかは大きくなるのかもしれません。それを「意味」と呼べば呼ぶことはできるでしょう。

 

インタビュアー:

なるほど。「今のところ書くことで何かを変えたことがない」○○さんからすれば、それが果たして意味と呼びうるものなのか、そもそも何かが変わったりなんてするのか、といったところは評価のしようもありませんですしね。

 

僕:

そのとおりです。でも、あくまで何も変わることがないと仮定して、それでも書きつづけるとしたら、それは僕の中のモチベーションによる以外の何物でもないですよ。意味への不確かな信仰を持って、個人的な探求の喜びに動かしてもらって、それでなんとか続けていく。たぶんそんな感じで進んでいくんじゃないでしょうか。

 

 

……ということで、本日は○○さんにお話を伺いました。お時間いただきましてありがとうございました。これからも頑張ってください。