いい人

友達の家で絵を描いた。

とりあえずせっかくの機会だし、と思って真剣に描いたら案外褒められた。

 

絵をください、と言われて、嬉しかった。

二人に言われたのだ。

一人は、絵のモデルになってくれた人。もう一人は、画家の友人だった。

 

先に、くれ、と言ってきたのはモデルになってくれた人で、僕はそのときは彼にあげようと思っていたのだが、画家のほうの人が、あとからその絵をじっくり見て、くれないか、と言ってきたのだった。

先に一人に言われたときは、あげよう、と思ったのだが、あとからもう一人に言われてから、僕は困ってしまった。

先に言ってくれた人にあげるべきか、あとから言ってくれた人にあげるべきか。

はかりにかけてみても、うまく結論が出せなかった。

 

結果的に、どちらにあげるという話にもならず、その絵はどこかに行ってしまった。

もしかしたら明日にでもゴミ袋に入って捨てられているかもしれない。

 

一人で家に帰りながら、僕はそのことについて考えたのだった。

僕は本当は、きっと画家の友人のほうに、絵をあげたかったんだと思う。

その人自身が絵を描くとき、そのインスピレーションの一端に、少しでも僕が描いたしょうもない絵が寄与してくれたら嬉しかっただろう、と思えて。

帰り道に立ってみて、僕は初めてようやくそう思ったのだった。

そしてやっぱり、ちょっと後悔した。

 

僕は多分にそういうところのある人間なのだ。

 

今日、「俺ってどんな人?」と、数年ぶりくらいに人に尋ねたら、僕が欲しい答えでも嬉しくない答えでもなく、ただ「いい人」と言われた。

加えて言えば、「いい人どまりで終わりやすいタイプ」とまでご丁寧に修正いただいた。

言いえて妙だと思った。そういうとき人は喜びも怒りもせずただ胸を衝かれるんだな、と思った。

いい人どまりで終わりやすいタイプ、という言葉は、今も啓示みたいになんとなく響いている。